第78章 誘拐された

有岡里穂は、跳ねるように目を見開いた。恐怖に引きつった瞳が、じりじりと距離を詰めてくる人影を捉える。

「来ないで!」

女の叫びは震えていた。恐怖と不安が網のように全身へ絡みつき、ほんの数秒前に拾い集めた理性は、あっけなく崩れ落ちる。

薄い灯りの下。キャップを目深にかぶった男は、彼女の悲鳴にも足を止めない。一定の歩調のまま、淡々と、確実に迫ってくる。

男は最後に、有岡里穂の前へ半身を落とした。

「暴れんな。俺、手際よくねぇから……ちょい痛いかも。堪えろ」

濃い訛り。どこかで聞いた気がするのに、頭の中が真っ白で思い出せない。

「……な、何する気?」

両手は背中で縄に縛られ、動かせ...

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